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東京高等裁判所 昭和61年(く)52号 決定

少年 I・N(昭43.9.1生)

主文

原決定を取り消す。

本件を千葉家庭裁判所松戸支部に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、原審附添人弁護士○○、同○○が連名で提出した抗告申立書及び少年が提出した抗告申立書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。所論は、原審附添人の抗告理由中の法令違反及び重大な事実の誤認をいう点を含め、実質はすべて、原決定には処分の著しい不当があるからその取消を求める、という主張である。

そこで、関係記録に基づいて検討すると、少年の本件非行事実の要旨は、少年が、(一)Aと共謀の上、昭和60年11月21日午後10時ころ、松戸市○○××番地○○○駐車場において、B所有の普通乗用自動車1台(価額100万円)をその積載物であるゴルフ用品一式他1点とともに窃取し、(二)公安委員会の運転免許を受けないで、同年10月7日午後7時25分ころ、鎌ケ谷市○○××番地先道路において自動二輪車を運転し、(三)右の運転に際し、道路の右側部分を通行したというものであつて、少年は、これまでの行状や交友関係が芳しくなく、非行性がかなり進みつつあり、放置すると再非行に走るおそれのあることが明らかである。

しかし、当裁判所の事実取調の結果を参しやくして更に検討すると、本件少年の処遇にあたつては、次のような点も考慮されなければならないものと思われる。

1  本件非行の中心ともいえる前記(一)の自動車窃盗の行為については、犯行の動機、態様、結果、犯行後の行動、示談成立の状況などからみて、犯情に若干くむべき点があること。

2  少年が、これまでに自動二輪車数台を入手したことは、無免許運転などに連なるおそれがあることではあるが、入手の経緯や利用状況、対価の支払関係などが必ずしも明らかでなく、一概に非行性の進行に結びつけるわけにはいかないこと。

3  少年には、車上盗.シンナー吸引などの非行歴があるようであるが、家庭裁判所に係属したものとしては道路交通法違反事件が2件あるだけで、それも審判不開始及び不処分となつており、身柄を拘束されたのも今回が初めてであつて、少年が、条件のいかんによつては、右の身柄拘束の経験を契機として更生の道を歩む可能性がないとはいえないこと。

4  少年がこれまで父母の指導に反発しており、家庭での指導には必ずしも期待できない状態であつたことは間違いないとしても、審判の段階においては、父母も反省し、少年の更生を図るために、少年の非行化の遠因となつたスナック経営をやめることとし、被害者との間に示談を成立させ、少年の就職先を探し出すなどの具体的対応策を積極的に講ずるに至つているのであつて、父母の姿勢や家庭の雰囲気に少なからず変化が生じており、また、少年自身としても、いつまでも父母に反発する気持でいたわけではないようにうかがわれること。

5  審判の当時、保護者により少年の「○○土建」への就職の準備が進められていたというのであつて、その「○○土建」が少年の更生のための社会資源とするのに適しているか否かは、大いに検討に値すること。

原裁判所が、右の諸点を十分に考慮し、必要に応じ更に審理を進めたならば、少年を直ちに中等少年院に送致するのではなく、より妥当な措置として、いわゆる社会内処遇の方法を選ぶ余地が相当程度あつたのではないかと考えられる。

したがつて、原決定には処分の著しい不当があり、本件抗告は理由があることに帰するから、少年法33条2項、少年審判規則50条により原決定を取り消し、本件を原裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 坂本武志 裁判官 田村承三 本郷元)

抗告申立書〈省略〉

〔参照〕 原審(千葉家松戸支 昭60(少)7668号、昭61(少)17号 昭61.2.12決定)〈省略〉

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